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預貯金も遺産分割の対象に?最高裁が判例を見直すことになりそうです

2016/10/20

10月19日、遺族間で争われた事件で、最高裁大法廷が双方の意見を聞く弁論を開きました。大法廷は、判例変更の際などに開かれるため、問題の原因と指摘される判例が見直される可能性が出てきました。決定は、早ければ年内に出る見通しですが、一方、法相の諮問機関である法制審議会でもこの問題が議論されており、今回の最高裁の判断は、今後の法改正にも影響を与えそうです。

 

そもそも、何が問題となっているのでしょうか?
民法第896条では、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」と定めています。
つまり、相続が開始されると、相続財産は遺産分割によって各共同相続人の具体的な相続分が決まるまでの間は、各相続人の法定相続分に応じて共有とされるのが原則となっているのです。
なお、被相続人に一身専属的に帰属している財産というのは、例えば、代理における本人・代理人の地位や、雇用契約における使用者・被用者の地位などで、これ以外は、原則として遺産分割の対象となる相続財産であると考えます。

 

そして、相続財産については、昭和29年4月8日の最高裁判決で次のように示されています。
「相続人数人ある場合において、相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解すべきである。」
つまり、相続人間での遺産分割協議が整わなくても、相続の開始によって当然に、共同相続人各人はそれぞれの法定相続分に応じて、各金融機関に対して預貯金の払い戻し請求ができるこというわけです。
わかりにくいですが、「タンス預金」や「へそくり」など、手元に置いてある現金は、あくまで金銭であり、債権ではありませんので、遺産分割協議を行わないと分割できませんが、預金・貯金は、法的にいえば、銀行等に対する預金・貯金の払戻請求権という債権になるのです。もちろん、預金ですから、一部払い戻しもできる分割可能な債権なので、自分の法定相続分は当然に払戻しが出来るのです。たとえ遺産分割協議が長期化する場合でも、預金だけは、先に法定相続分が受け取れるわけです。

 

ところが、現実には、金融機関の実務においては、共同相続人全員の同意書や承諾書、または遺産分割協議書及び遺言書などがない限り、共同相続人中の一人からの法定相続分に応じた預貯金の払い戻しには応じない、という取り扱いになっているところがほとんどです。これは、後に遺産分割で紛争等に発展した場合に、金融機関が責任を問われることを回避するためではないかと考えられます。
このように、法律(判例)と実務の取り扱いに、大きな隔たりがあるのが現状です。

 

遺産分割の実務上、遺産に不動産などの高額な財産が含まれる場合、現金や預金債権は、最後の調整手段としてきわめて有用なので、これを遺産分割の対象に含めることは望ましいと考えられますし、今回の審判事例のように、預金債権が遺産の大部分を占める場合には、生前贈与などの特別受益や寄与分を考慮する機会が失われてしまうことになりますので、判例が見直されることになれば、衡平かつ妥当だと言えるでしょう。
反面、遺産分割協議が整わない限りは預金も現金化できないとなると、相続税の申告期限(相続を知ったときから10か月)に間に合わない、という場面も出てくるかもしれません。相続の実務においては、影響の大きな判例見直しとなるでしょう。

 

どちらにしても、トラブルを回避するためは、きちんと遺言書を作成し、面倒な遺産分割協議の手間を不要にしておくことが大切ですね。