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定年後再雇用の嘱託社員に対する「賃下げ」は適法であるとの逆転判決がありました(平成28年11月2日)

2016/11/8

定年後に嘱託社員として再雇用されたトラック運転手が、定年前と同じ業務に従事しているにも拘わらず賃金を2~3割下げられたのは違法だとして、雇用主の運送会社を訴えていた裁判で、一審の東京地裁は、会社に対し、正社員と同じ賃金を支払うよう命じる内容の判決を言い渡しましたが、この控訴審判決で東京高裁は、「定年後に賃金が引き下げられることは社会的に受け入れられており、一定の合理性がある」と判断し、一審判決を取り消し、請求を棄却しました。

 

一審判決では、嘱託社員と正社員との格差が、労働契約法第20条で禁止された「不合理」なものと言えるかどうかが争われ、裁判所は「財務状況などを見ても正社員と格差を設ける特段の事情はない」として同じ賃金の支払いを命じ、会社が控訴していました。
控訴審では、「同じ仕事でも一定程度の賃金の減額は社会的に容認されていて、企業が若年層を含む雇用を確保する必要性などを考慮すると、減額は一定の合理性がある」と理解を示しました。また、同社が再雇用の労働者と正社員との賃金差を縮める努力をしたことや、退職金を支払っていること、同社の運輸業の収支が赤字になったとみられることなども考慮し、原告の賃金が定年前と比べて2割前後下がったことは、同規模の企業が減額した割合の平均と比べても低いことから、「定年前後の契約内容の違いは不合理とは言えない」と判断しました。
原告側は、会見で上告する考えを示しました。

 

一方で、政府では、同一労働同一賃金の実現に向けた動きが始まっています。
平成27年9月に「同一労働同一賃金推進法」が施行されましたが、これは、正社員と派遣社員との賃金格差の解消を目的として、もともと労働者派遣法改正案の対案として野党側が提出していた法案が修正されて可決されたもので、当初の格差解消という目的からは後退した(骨抜きの)内容となってしまいました。
この時点では、安倍総理は、同一労働同一賃金の実現には慎重な考えを示していましたが、一転、平成28年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」の中で、実現に取り組む方針が示されました。
この方針を踏まえ、現在、厚生労働書の有識者検討会で議論が進められているわけですが、正規社員と非正規社員の労働条件の相違が「不合理」か否か、今回の裁判例では、定年後再雇用の賃金引き下げに「特段の事情」が認められるか否か。「不合理」や「特段の事情」、これらをどのように判断していくことになるのか、
雇用や待遇の格差・不平等を、どのように是正していくのか。今後の法改正情報や裁判の動きを注視しておく必要がありますね。