プレスリリース 2024/01/22
2024/1/23
2024年1月18日
被害者救済委員会 御中
要 請 書
ジャニーズ性加害問題当事者の会代理人弁護士
蔵元左近、杉山和也、村田賢飛
当職らは、株式会社SMILE-UP.(以下、「SMILE-UP.」)が設置した被害者救済委員会(以下、「救済委員会」)に対し、ジャニー喜多川氏の性加害事件の被害者の完全な救済のために、下記のとおり要請いたします。
記
1 SMILE-UP.は、2023年12月1日付リリース(「補償内容の合意および補償金の支払い開始について」)で、以下のとおり宣明しています。
被害者救済委員会は、受付窓口を通じて寄せられた申告と被害申告をされた方からの直接の聞き取りを通じて、被害者各人の具体的な被害内容やその後の生活への影響などを確認した上で、被害の程度・被害の凄惨さと被害者に生じた様々な生活上の支障や後遺症などの個別具体的な事情を踏まえて、補償金額を提示します。
- 当職らは、SMILE-UP.が、国連ビジネスと人権指導原則(以下、「国連指導原則」)及び日本政府の人権尊重ガイドライン(以下、「政府ガイドライン」)で要請されている「ステークホルダーとの対話」を十分に行わず、当事者の会を含む被害者側の声を聞くことなく、救済委員会を立ち上げたことを大変残念に思っています。
- ただ、救済委員会が設置・運用されている以上、救済委員会におかれては、国連指導原則及び政府ガイドラインに則り、被害者の困難と苦痛に向き合い、法曹の職務遂行の根源である正義の観点から、被害者の完全な救済を図るため、職務を真摯に遂行していただくことを強く要請します。
2 救済委員会は、2023年12月1日付文書「補償金額算定に関する考え方」で、補償金額についての基本方針を公表されています。
- 同文書で述べられている救済委員会の判断については、概ね、当職らも賛同するものです。
本件では、①被害者が生育途上にある少年たちであり、②最初の被害時において何ら性的経験がなく人生における初めての性的経験がジャニー喜多川氏による加害行為であったという者が大半を占め、③芸能界における活躍・飛躍を夢見て、あるいは芸能活動の継続のために性交をやむなく受け入れ、さらに、④数年にわたってそのような関係を強いられ、いわば性的搾取という状態に置かれていた者も少なくなかった。
加えて、⑤ジャニー喜多川氏が少年らに性的加害に及んでいることは少年らの間で共通認識が形成されていたにもかかわらず、ジャニーズ事務所の関係者に助けを求められない状況であった。また、⑥被害者らのその後の生活上の影響も様々なものがあり、程度の違いこそあれ、様々な深刻な影響を及ぼしているものと見られるものであった…被害者救済の観点から厳密な立証を求めず、「法を超えた」賠償をする観点からも、少なからずその影響があるものとして慰謝料算定をする。
- 一方で、当職らは、救済委員会に対し、以下の点も踏まえた補償金額の算定を行うよう、強く要請します。
⑴ 救済委員会は、「被害の程度・被害の凄惨さによる慰謝料を算定すると共に、後遺障害等の影響についても慰謝料を算定し、その合計額を補償金額として算定する」と説明しておられます。
しかしながら、被害者の被害は、慰謝料の対象となる精神的損害に止まるものではありません。ジャニー喜多川氏の性加害によって、精神のみならず、身体の健康を害し、また、現在も害している被害者は多数存在します。「慰謝料」の支払いに止めることは、被害者の身体の健康が被害を受けていることを無視するものです。
⑵ また、ジャニー喜多川氏の性加害によって、人生が暗転してしまった被害者が多数存在する中では、貴い人生が損なわれたということで逸失利益の補償を被害者達に対して当然行うべきです。救済委員会の説明では、逸失利益の補償が行われないことになってしまいます。
性加害は、性別にかかわらず、人間の尊厳を破壊し、当然にあり得た幸福な人生を奪うものであって、その被害を回復することは本来不可能です。それにもかかわらず、やむを得ず、人間の尊厳そのもの、幸福な人生そのものを金銭に換算するという、本来不可能な作業を行うことにならざるを得ないのですが、具体的な補償額については、逸失利益を含めた可及的に完全な救済を図ることを求めます。
⑶ さらに、被害者の近親者には、被害者から被害を告白される中で精神的な苦しみや被害を受けている他、直接誹謗中傷を受けている方々も存在し、深刻な被害が発生しています。
それにもかかわらず、救済委員会の説明では、被害者の近親者における深刻な被害の補償が行われないことになってしまいます。
⑷ 加えて、被害者の中には、当職らのような弁護士を選任して、SMILE-UP.及び救済委員会と交渉を行っている方々がおられます。弁護士なしで、企業相手に交渉することは困難であり、SMILE-UP.及び救済委員会と交渉する際に弁護士を選任することは当然必要なことです。
それにもかかわらず、救済委員会の説明では、ジャニー喜多川氏の性加害と相当因果関係がある筈の弁護士費用の補償が行われないことになってしまいます。
⑸ 最後に、救済委員会は、「慰謝料金額を算定するに当たっては、日本国内における過去の裁判例だけでなく、BBCのキャスターの性加害事案の賠償額やカトリック教会での性加害事案に関する海外諸国での賠償事案なども参照しつつ適正と考える金額の算定を試みた」と説明しています。
- 当職らとしては、別紙記載の海外の賠償事案が近時複数存在することを指摘し、救済委員会がこれらの裁判例を参照して、被害者の身体の健康の被害、逸失利益、被害者の近親者の損害、及び、弁護士費用も加算した、同水準の金額の補償を行うように強く要請します。
以 上
別紙
海外諸国の賠償事案(記載内容は報道に基づく)
1 Jury awards $95M to man who accused Upstate NY priest of child sex abuse
1979年7月、15歳の少年が聖職者から自動車内で性加害を受けた事件であり、合計9,500万USドルの賠償(過去の被害分として3,000万USドル、将来の損害分として1,500万USドル、懲罰的賠償として5,000万USドル)の支払いが命じられた。
2 Jury awards $100 million in local Child Victims Act case
2008年から2012年の間、少女が12歳から16歳まで、家族の親しい友人から性加害を受けた事件であり、過去の損害分として3,000万USドル、将来の損害分として2,000万USドル、懲罰的損害賠償として5,000万USドルの支払いが命じられた。
3 Brooklyn Diocese Reaches $27.5 Million Settlement In Sex Abuse Case
2002年から2009年までの間、カトリック学校の教師が8歳から12歳の4名の少年に対して、教会施設やアパートメントで性加害を行った事件であり、ブルックリン教区が4名の被害者に対して2,750万UDドルの賠償を行うという内容の和解が合意された。
4 Raped by Minister Are Awarded $11.45 Million
聖職者が3年に渡り、2名の少年(男女)の15歳当時から性加害を行った事件について、教区等に合計1,145万USドルの支払いが命じられた。
内訳は、これまでの傷害と苦痛に対して各被害者に250万USドル、女性の被害者には今後12年間に渡り25万USドル、男性の被害者には今後30年間に渡り11.5万USドルの賠償である。女性の合計賠償額は550万USドル(250万USドル+25万USドル×12年)、男性の合計賠償額は595万USドル(250万+11.5万USドル×30年)となる。
5 Former Pediatrician Ordered To Pay $22 Million in Sexual Abuse Suit; and Sexual Abuse Lawsuit Against NY Pediatrician Results in $22M Verdict
小児科医による被害者の女性1名の幼児期から18歳までの期間の性加害について、1,700万USドルの損害賠償と500万USドルの懲罰的損害賠償の支払いが命じられた。
6 JURY AWARDS $30 MILLION TO 2 IN CASE OF ABUSE BY PRIEST; and
$30 Million Awarded Men Molested by `Family Priest’ / 3 bishops accused of Stockton coverup
聖職者が 1978年から1991年まで(被害者が3歳から13歳までの間)、2名の兄弟の被害者に対して行った性加害行為に関し、合計600万USドルの損害賠償と、2,400万USドルの懲罰的賠償の支払いが、カトリック教区に命じられた。
7 Victim of paedophile priest Vincent Kiss vindicated by potential record payout from Catholic Church; and Multi-million Catholic Church payout ‘massively important’ for future sexual abuse cases
聖職者が行った、被害者1名の14歳からの2年間に渡る性加害行為について、200万豪ドルの賠償と130万豪ドルの懲罰的賠償の損害賠償の支払いが、教区に対して命じられた。
内訳として、苦痛の損害に対して110万豪ドル、過去及び将来の収入の損失(逸失利益)に対する損害賠償として96.5万豪ドルである。
8 AFL club Western Bulldogs ordered to pay $5.9m to child sexual abuse victim Adam Kneale;
Western Bulldogs ordered to pay child sex abuse victim $5.9m in damages; and
Western Bulldogs ordered to pay $6m for child sex abuse
オーストラリア式フットボールクラブが、クラブのボランティアの男性から性加害行為を受けていた男性(11歳又は12歳の頃以降、1984年から1990年まで)に対して約600万豪ドルの賠償を支払うように命じられた。
内訳としては、335万ドルの損害賠償は苦痛の損害分、260万豪ドルの損害賠償は収入の損失分(逸失利益)、8万7500豪ドルは医療費分である。別途訴訟費用分も加算されると報道されている。
以 上